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コラム「若者たちに蔓延する(やりがい)の搾取」
(山本勝彦さん)

今、日本のあらゆる分野で「〈やりがい〉の搾取」という現象が密かに進行している。この背景には自分の夢を求めなさいとか、好きなことを仕事にして自己実現をしなさいという世の中の風潮がある。このこと自体は悪いことではないが、現実にはそれで成功する人はごく一握りに過ぎない。昔は才能や能力のない者には親や先生や先輩が現実の厳しさを踏まえて忠告したものだが、最近はだれもそれをしない。従って、若者たちは好きな分野でいつの日か夢が実現できるということで、単純な仕事でも、報酬が安くても頑張り、結果的に働き過ぎるという「自己実現ワーカホリック」症候群に陥っている。そして今の社会には「好きを仕事に」した者たちを仕事中毒のサイクルと徹底した自己責任の論理で追い込んでいき、彼らを食い物にし搾取する資本の非情な論理があり、これを「〈やりがい〉の搾取と呼ぶのである。

このことを具体的な体験談で本にしたのが阿部真大著「搾取される若者たち=バイク便ライダーは見た」〈集英社新書〉である。東大大学院生の彼がバイク好きでアルバイトでバイク便ライダーをやった経験談を研究論文にしたものだが、好きを仕事にした結果、無理や事故で体を壊したり、若い時は良いが40前後で首になっていく先輩を何人も見てきて、「自己実現の蟻地獄」や「やりがいの搾取」に陥ることに警告をならしている。

この話はアート界にも当てはまり、美大を卒業して人気作家を夢見たり、有名美術館の学芸員を目指す若者たちの多くが「やりがいの搾取」に陥っている。美大と言ってもデザイン科等は始めから就職するつもりで入学しているので採用状況等については意識している筈である。しかし、純粋に作家を目指す人について言うと、日本でプロの絵描として専業で生きている作家は100人もいないのではないだろうか?かなりの名のある作家でも大学や塾・カルチャーで教えるなどの定職があるからやっていけるのである。しかし、運良く定職に就ける人はほんの一握りで、将来の村上隆や奈良美智を目指して、「やりがいの搾取」状況に陥っている人がかなりいる。昔なら数年挑戦して駄目ならば、今後の生活のこともあるので、自分で限界を悟りあきらめたり、まわりからの忠告で転身したのだが、今はアルバイトをしたりして何とか生活出来るので、ずるずると夢を引きずって中年を迎えてしまうのである。

一方、アート分野で活躍している一部のかっこいい人にあこがれて、アートアートマネジメント学芸員資格を取る人も増加しているが、こちらもプロの作家以上に狭き門だ。学芸員資格をとっても、美術館の誰かが退職しない限り採用はない。大学院を出たバイリンガルの優秀な女性でも就職出来ない人をたくさん見ている。そして運良く就職しても経費削減の中、1年とか2年の契約採用であり、中期的な展望のない不安定な立場である。しかし、自分の夢であり、希望する仕事なのでなかなかあきらめ切れず、普段はフリーターやアルバイトで何とか生活し、アート関係のNPOや美術館のワークショップやアートイベントの廉価な労働力やボランテイアとして結果的に利用されている場合が多い。

昔のように良家の子女の箔付けとかカルチャーセンターならばいいが、少なくともプロ作家の養成とか美術関連への就職の為の美大だとしたら、そもそも、需要と供給の関係で考えても、作品を買ってくれる企業や人、学芸員を雇ってくれる美術館や自治体も少ない中で、今のような大量の美大卒業生がいること自体がおかしいのである。美大も美術関係者もこのことは承知の筈で、甘い夢を持たせ、若者の人生を狂わすかも知れないという自覚を持ち、彼らの進路にもっと責任をもって欲しいものである。

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